教授あいさつ

 東北大学麻酔科HPをご訪問いただき,ありがとうございます。

 私たちは,「最高水準の麻酔を全患者に」を合言葉に,周術期の全身管理,重症患者さんの集中治療,ペインクリニックを行っています。

 さらに,これらに関係する医学,医療機器および経営的な最先端研究,リーダーシップを担う人材の育成,人間性とよい人生を考える組織づくりを行っています。

 私は今年で就任7年目を迎え,内外での立場の変化と当教室の成長と発展を踏まえ,決意を新たにしています。

1.当教室の歴史と現在

 東北大学麻酔科は1953年に設立され,今年で67年目の歴史と伝統を有する教室です。1998年の大学院重点化に伴い,医学部および医学系研究科においては麻酔科学・周術期医学分野として研究および医学教育を,大学病院においては麻酔科として臨床および臨床的な教育と研究を行う組織として発展してきました。

 東北大学麻酔科は1954年に初代武藤完雄先生が開講したことにはじまり,翌年,第1回日本麻酔科学会を開催されました。第2代教授の綿貫拮助先生(1954-1958年)は外科学との融合と麻酔科学の独立を図りました。第3代岩月賢一先生(1958-1977年)は,日本医学会の巨星ともいわれた先見の明のある指導者でした。外科学から麻酔科学への転換期に,麻酔科学の臨床・教育・研究に加え,1961年に第8回日本麻酔科学会の開催,第1回から3回までの日本集中治療医学会開催,そして大学初となる集中治療室と手術部の運営と,現在の日本の麻酔科運営の基本を作り上げました。岩月先生の功績を称え,日本集中治療医学会学術集会では「岩月賢一記念講演」が創設されました。第17回日本麻酔学会を開催された第4代教授の佐藤光男先生(1977-1978年)は急追されました。第5代教授天羽敬佑先生(1979-1985年)が,集中治療,とりわけ人工呼吸の研究と臨床について熱心に指導され,第41回日本麻酔学会と第12回日本集中治療医学会を開催されました。第6代教授の橋本保彦先生(1986-2001年)は,温和な人柄で安定した麻酔科運営をされ,第4回日本小児麻酔学会を開催されました。第7代教授の加藤正人先生(2002-2011年)は国立大学の独立法人化と臨床初期研修制度の開始という,時代の変化に苦労されながら,臨床麻酔へのニーズ増加を解決するべく奮闘されました。この間,1967年に斎藤隆雄先生が徳島大学に,1978年に岩月賢一先生が獨協医科大学に,1994年に古賀義久先生が近畿大学麻酔科教授に就任されました。2000年に山室 誠先生は疼痛制御科学分野(現在の緩和医療学分野)の初代教授として,国公立の大学病院として初となる緩和ケア病棟を開設,2003年に日本ペインクリニック学会を開催されました。また,第6回日本臨床麻酔学会(1986年)を仙台市立病院の塩澤 茂先生が開催されました。2011年から黒澤 伸先生が東北大学特命教授としてとして活躍されました。現在も江島 豊特命教授が,麻酔科のみならず材料部そして手術部の中心を担って活躍しています。

 東北大学麻酔科は本邦の麻酔科学を牽引してきた一方,その歴史は日本の麻酔科の歴史の縮図とも言えます。麻酔科学の創成,集中治療医学と手術部の中央化,麻酔科へのニーズ増加や臓器移植への対応,そして専門医制度を安心して迎える体制と研究活動の充実です。6年前に私が赴任した時は,「開放(解放)と育成」をテーマに,当科の取り組みやエネルギーを内外に開放し,解き放ち,若手からベテランまでがそれぞれの立場で成長することに取り組みました。昨年からは「継続と発展」をテーマに,高いレベルの成果を継続できることと,そのための発展的な広がりのある運営を心がけています。

 結果として,これまでの経験を礎にわが国のトップランナーとしてレベルの高い臨床活動と丁寧な教育システム,さらに世界をリードする研究活動を展開しています。関連施設との連携も安定しており,各施設が実力と信頼感のある科長を中心に,最前線の診療・教育・研究をしています。いわゆる専門医プログラムに入っているすべての施設が密接に関わって,一人一人の麻酔科医の現在と将来を丁寧に考える組織です。

2.当教室の運営方針

 私は平成25(2013)年に着任いたしました。教室を,多くの医師が集い,患者さんが満足してくれる,病院と社会が安心する,日本・世界を代表する麻酔科学教室の一つであり続けるように運営します。そのために安定しながらも,新鮮な気持ちで発展できるスペースを持ち続けています。

【臨床】

 基本的な手術から高度先端医療,そして重度合併症に対応できる麻酔の実践を心がけております。また,安全管理医療スタッフ教育も当科の重要なテーマです。日々の臨床での心がけと,毎年の麻酔セミナーでの啓発を忘れずに取り組んでまいります。

 麻酔科学は基本となる「鎮静・鎮痛・不動化」から,専門性のある周術期の全身管理学へと進みました。さらに当科では,医学の枠を超えた活動や連携を診療に活かしています。当科の麻酔科研修プログラムは全ての関連学会の専門医・認定医の研修が可能で,症例数が豊富です。きちんと研鑽を積むことで,スムーズに各種資格を取得することができるので安心してください。学術活動も盛んですので,男女や経歴を問わず大学院との両立も普通に行えます。さらに,社会活動も積極的に薦めています。産業医,男女共同参画事業,介護,教育,ベンチャー会社の起業,社会・国際貢献,アンガーマネージメント,スポーツ医学など,様々な活動を行いながら麻酔科医として活躍しています。「自分のために働く」ことが,周囲の人や組織にいい影響となる運営を心がけております。

 東北大学病院は心臓や肺など,あらゆる臓器・組織の移植手術の認定施設です。きわめて高い麻酔技術と社会的責任を感じて取り組んでおります。通常の呼吸・循環管理をより高いレベルで行えるよう,日ごろから努めています。最高峰の環境で,最前線の現場の医療から,日本全体や世界に影響を与える活動まで,様々に貢献できるように育成します。

【研究】

 臨床研究は,臨床疑問や自らの興味を整理して,明日の患者さんに活かせるテーマにして進めています。スタッフや大学院生が腰を据えて,世界に発信できる独創性のある臨床研究を多数行っています。これらの多くは日本学術振興会の科研費などを得ており,トップジャーナルでの発信を視野に入れています。一方で,超音波装置や近年の非侵襲モニタを用いた研究などは,学生,他の学部や企業と一緒に行うことにも積極的に取り組んでいます。大規模臨床研究や全国多施設との研究も行っており,研究を通した人材交流も盛んです。

 基礎研究は,常に病態解明や新たな治療方法の開発,すなわち臨床応用を意識したトランスレーショナルリサーチへの展開を考えて進めています。われわれは実験動物の行動学的研究だけではなく,遺伝子から細胞まで,東北大学のリソースを最大限に活用して,世界トップクラスの研究を多数行っています。

 データサイエンスとマネージメントも,私たちが誇る最新の研究領域です。当科だけでも統計学,経済学的手法,AI活用,Big Data解析,テキストマイニングを駆使できるメンバーがそろっており,複数の科研費を取得する一方,関連企業との研究も行っています。

 医工連携・文理融合,社会学的な研究もこれからの柱です。他学部の学生教育から関わり,医療機器の開発,教育方法の開発,男女共同参画に関連するマクロ研究に取り組んでいます。特許を取得した研究もあり,これらは私たちの生活に関わる楽しみでもあります。

 研究には安全管理と倫理的配慮も重要です。当科では研究活動を通して,広い視野で,深い洞察力を持つ,わが国の麻酔科学を担う人材を多数育てていきます。

【教育】

 大学1年生から始まる座学教育,3年生の基礎修練における研究,5年生の臨床実習,集中的に全身管理を学ぶ6年生の高次修練まで,一貫性のあるプログラムです。麻酔科医の役割と技術,基礎医学との関連を理解し,急性期医療における全身管理に興味を持つ内容としています。また,医師となる人材だけではなく,医療スタッフや関係企業などで活躍する人材育成と交流にも積極的に関わり,連携活動の基盤を作っています。

 高次修練まで選択すると,手術前日の麻酔計画,実際の麻酔,術後回診を若手教室員と一緒に実習を行うため,Student Doctorの名に恥じないレベルとなります。

 卒後の初期臨床研修では,上級医と一緒に麻酔を行います。上級医が若手の場合は,さらに麻酔科専門医が一緒に,丁寧な指導の下に麻酔を行っています。たんなる医学知識・技術の伝授ではなく,準備の大切さ,患者さんへの共感,執刀医や看護師とのコミュニケーションの育成を心がけています。

東北大学麻酔科では,臨床・教育・研究すべてにおいて幅広く最先端の活動を行っています。明るくオープンに仕事ができます。これは現在約150名の医局員を,一人一人見つめて運営しているからだと自負しております。これからも患者さんへの敬意を忘れずに最高の麻酔と医学・医療の進歩を産み出す組織として歩みます。

2019年4月1日
教授 山内正憲

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